王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 はたとして瞬いたのは、マリーとウィル。

 大きく目を見開くのも、ふたり同時だった。


「……マリー……」


 呟いたウィルの視線を辿り、エルノアとミケルまでもがこちらを振り向いてくる。

 突然集めてしまった注目に驚いて、マリーは後ずさりした。

 動かないと思った足は、痛みを伴いながら地面を蹴る。

 身体がその場から駆け出したのは咄嗟のことで、マリーは自分でもなぜそうしているのかわからなかった。

 ただ自分が何も知らない無知な小娘であることが、恥ずかしくてたまらない。

 エルノアのように気の利いた差し入れも持たず、自分の心のままに来てしまった。

 もうじき太陽が地面に潜る時間だ。

 屋敷では夕食の準備が始まるだろう。

 陽が沈む前にエレンが裏庭へマリーを呼びに来る。


 私がいないとなると、エレンが心配するわ……。


 周りに心配をかけてまで、自分は何をしにここまで来たのだろうか。
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