王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 ウィルの瞳を追ってマリーも自分の足元を見下ろす。


「ここまで歩いてきた!? しかもひとりで!?」


 跳ねた土や小さな草がボロボロのレースに絡んだ見すぼらしいドレスが途端に恥ずかしくなる。

 見られたくなくて彼から一歩足をあとずらせると、スカートの裾から血の滲む足の甲が見えてしまった。


「これは……っ、どうして……!」


 マリーの足を見て息を飲むウィルは、痛々しげに目元をしかめる。

 たかだか片田舎の伯爵とはいえ、爵位ある家柄の令嬢がこんなに足を汚しているなんて、両親の顔にも泥を塗りかねない。

 自分の感情だけの行動を顧みて、ますます罪悪感を募らせた。


「ごめんなさい……とてもいけないことをしているとわかっているの。いち令嬢でもあるのに、こんなみっともないことして……。ウィルにとっても、とても迷惑なことだったのに。
 でも私、どうしても会いたかったの……貴方に会いたかった……っ」
 
 
 溢れ出してきた気持ちを見上げる瞳に込め、サファイアの煌めきに訴える。


「ウィル、私ーー……」


 そのまま勢いに任せて、彼に対する想いもぶつけそうになったところで、ウィルの向こうから「ウィリアム様」と呼びかける声に遮られてしまった。
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