王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 声の方へと振り向くウィルと合わせて、向こう側へ視線を送ると、後を追ってきたらしいミケルが、心配そうな面持ちでふたりに歩み寄ってきていた。


「ミケル、たしか学舎に二人乗り用の鞍があったろう? すまないが持ってきてくれないか」

「御意」

「ああ、それと濡らした布巾と応急手当の道具を」

「承知しました」


 明らかに年上であるミケルに、遠慮のない物言いをしたウィルをきょとんと見上げる。


「今の方は……?」


 不服なく従うミケルの後ろ姿に首を傾げるマリーに、ウィルは自分のマントを外しふわりと被せる。

 彼は答えをくれないまま、藍色のフードでマリーの金色の髪を隠すと、首元のボタンを合わせながらぐっと顔を寄せてきた。


「マリー……」


 呟いたウィルの少し低い声は、少女の小さな口唇の中に優しく吹き込まれた。
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