王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
*  *  *


 手入れでもするように、ウィルは金の髪に長い指を通す。

 ふわふわの長い髪は、そこに絡んでから解けていく。

 膝の上に向かい合わせに座るマリーの髪を撫でながら、少し潤んだエメラルドの瞳を覗き込んだ。

 もうすっかり大人のレディになったマリーだけれど、見つめ合うと染まる頬はまだ少女の名残を残している。

 ウィルは食むように、マリーの艶やかな口唇を自分のそれで掬った。


 夏の暑さはもうだいぶ落ち着いてきたものの、まだ外の陽射しは活力旺盛。

 けれど山手の木々から降りてくる風は爽やかで、昼下がりの室内はわりと快適だ。

 ウィルが午後からの休暇ということで、昼食を終えてから部屋でふたりだけの時間をまったりと過ごしていた。

 明日は久しぶりの一日休暇だ。どこへ出かけようかと、残暑の風に囃されながらふたりは囁き合っていた。

 ウィルは成人を迎えてからというもの、国王から国政にまつわる業務を次から次へと引き継いでいた。

 何年後に王位を継承することになるのかはまだわからないけれど、少しでも早く国を担える力をつけておかなければと、自身の責務に全力で邁進していた。
< 228 / 239 >

この作品をシェア

pagetop