王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 マリーが王城へ住むようになってから二か月。

 先日婚約の公表も無事に終え、ウィルは久しぶりにゆっくりとした時間をマリーと過ごせていることに幸せを感じていた。


「暑く、ない?」


 十分にマリーの甘い口唇を堪能したあと、鼻先でマリーが呟いた。

 残暑の中、密着する身体を気づかってくれているのか。それとも単なる羞恥か。


「いいや? 心地いいくらいだよ、君を抱きしめていると」


 しゅうっと赤い頬をさらに燃やす様子を見ると、どうやら後者のようだった。

 もう一度その愛らしい口唇を塞いでやろうと迫ると、部屋の静寂を割るノックに出鼻をくじかれてしまった。


「マリーアンジュ様、エルノア様がお着きになられました」


 続いて聞こえた侍女の声に、マリーは離れる理由を待っていたかのようにウィルの膝から飛び降りる。

 足を弾ませながら部屋の入口に駆け寄る金の長い髪を、ウィルは恨めしげに見つめた。
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