王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 ウィルも時折警衛を送り、フレイザーの様子は報告を受けていた。

 何かよからぬことを企てたりはしていないかと警戒していたが、エルノアの言う通り、何事にも無関心で魂を抜かれたように過ごしているとのことだった。

 あんなに切れる頭脳を捨て置くには、あまりにもったいない。

 いつかほとぼりが冷めたころに、また彼を呼び戻してもいいのではないかと思っていた。 

 まだ国王がすべての権限を握っているので、おそらくまだ数年は難しいだろうが。


 それにしても、あんなことをすれば、何もかもを失うということはわかっていたはずなのに……どうして。


 ふと思い浮かんだ理由に、ウィルはまさかと首をかしげる。

 マリーとの婚約を取り付けたのは、ウィルとエルノアの結婚の妨げになるものを排除するため。

 そして彼はエルノアを使いウィルの義兄となることで、王位継承権の次候補者に名前を挙げることが目的だというのは薄々わかっていた。


 ……そうなれば俺は、奴から命を狙われる日々に追われることになっただろうな。

 けれど……


 ――――『欲するものが手に入らないのなら、何もいらぬ』


 フレイザーの言葉が妙に引っかかっていた。
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