王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 『欲するもの』の中に実はマリーも含まれていて、自分への想いの皆無を知り、投げやりになったのだとしたら……。


「ねえっ、ウィルもこっちへ。一緒にいただきましょう?」


 物思いにふけっていたところで、マリーの愛らしい声音に思考を引き戻された。


「少し多めに作ってきましたの。よかったらウィリアムも召し上がって?」


 女性二人に呼ばれ、自分は蚊帳の外ではなかったのかと、やれやれといった様子で腰を上げる。

 どんなに考えても、恐らくフレイザーに尋ねたとしても、その本心はウィルが知り得ることは出来ないだろう。

 そのくらいのプライドの高さを持っていることは、長い付き合いの間で理解している。

 例えばもし、野望のためではなく、本当にマリーを愛していたとしたら、彼はただ本物の恋愛に不器用なだけだったのかもしれない。

 自分に重ね合わせる部分に同情するけれど、それでも、ウィルは未来永劫決してマリーを手放したりしないと心に誓いながら、愛くるしい笑顔を見つめた。




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