HARUKA~始~
「位置に着いて、よーい…―――――ドン」



パンっ!



ピストルの乾いた音が空を切って鳴り響いた。



ギュッと両手を交錯させて祈る。



関くんを勝たせて!



第1走者がロケットスタートをし、我が4組は暫定3位となる。

第2走者へのバトンタッチが若干手こずり、徐々に順位を落として行く。


「がんばれ~」

「4組ファイト!」

「イケるよー」

「そのまま、そのまま!」


次々と歓声が挙がる。

私は声を出せずにただ必死に見守り、祈り続けた。


そして第3走者の香園寺くんへバトンが渡された。

彼はドンドンスピードを加速させて前方の2チームを捕らえると、そのまま抜かし、暫定2位にまで躍り出た。

私の目の前を通過し、1位のチーム目掛けて魂の走りを見せている。

彼の背中からは今朝のような負の感情は感じられず、「やってやるぞ!」という気合いだけが感じられた。










そして、彼を象徴させるような真っ赤なバトンは遂に彼の手へ。

 
「関、頼むぞ~」


走り終えた香園寺くんが最後の力を振り絞って叫んだ。

関くんは首を縦に大きく振るとみんなの期待を背負って走り出した。

チーターのような走りは変わらない。 

そして、両脚の回転速度は誰にも負けない。
 
上半身は全くと言っていいほどブレず、安定したフォーム。


私の目の前をまるで流れ星のように一瞬で走り抜ける。

彼の走る姿はきらきらとまぶしいくらいに輝いて見える。

少しずつ、少しずつ距離は縮まり、ラストの直線に入った。

関くんがスパートをかけ、前を走っていた人の横に並ぶ。




あと1秒で決着!!



私は目をつぶった。







パンッ―――――



  


再びピストルが鳴った。



「おい、どっちだ?」

「4組追い上げたよね?」

「でも2組が勝ったんじゃない?」

「いやあ、4組っしょ」


会場がどよめく。



肉眼では決められず、どうやらビデオ判定になるらしい。








お願い、神様。

彼の笑顔を見せて。

私が今一番欲しいのは…










太陽のように明るく照らしてくれる彼の笑顔なんだ。
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