HARUKA~始~
パチンッ―――――


こんなに心地よい音を私はいつぶりに聞いただろう。

ずっと聞きたくて、ずっとずっと待ち望んでいた音。

鼓膜が破れそうなくらいの大音量があちらこちらから聞こえてくるのに、全く拒絶反応が出ない。

むしろずっと聞いていたい。
このままずっとこのかけがえのない時間を過ごしたい。




心のどこかでは高校生活に期待していなかった。


けれど、今思った。


期待しても良いんだって。


期待したら誰かが必ず応えてくれるんだって。


もっともっともっと高校生活を楽しみたいって。




きっと彼のお陰だ。

チラリと視線を移すと―――――目が合った。

彼はいつものように歯を見せて笑いかけてくれた。

それだけで十分なのに、私の方に駆け寄って来て、両手を差し出す。


私は、ゆっくりと手のひらを重ねた。


「昨日みたいに思いっ切りやりなよ」


関くんがやり直しを求めて来たので、今度は躊躇わずに勢いよく手を重ねた。



パンッ―――――



1番、本当に1番聞きたかった音が、
午後3時52分14秒、たった今聞けた。


「晴香ちゃん、約束はちゃんと守ったよ」


耳元にそっと息が吹きかけられて、それが外耳道を通って鼓膜に伝わり、渦巻き管から前庭、耳管、聴神経、そして脳に信号が伝わって全身の血が沸騰した。

たぶん顔は完熟トマトだ。

ハヤシライスに入れられちゃうよ…









神様、忘れられないハイタッチをありがとう。


青空の更にその先にいるはずの神様に心の底から感謝した。
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