君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜
「脱衣所にベッドがあるなんて、準備いいわね」

女性の声だ。

「入浴後にここで横になられるためです。アデラ様はご高齢でしたので」
レイが敬語を使っている。口調も普段と違い、丁寧で礼儀正しい。

「ここには何もありません。他の部屋をご案内します」
「いえ、ここでいいわ」
「え?」
レイが小さく驚いたような声を出した。その直後、ドンと音が鳴った。

「ねぇ、キスして」
女性が甘くねだる。
それから、しばらく沈黙が続いた。

「あなた、もう経験済み?」
「人間の女性とはありません」

正直に答えたのだろうが、相手に正確に伝わっているのか甚だ不安を感じる回答だった。

「変な人ね」
女性が囁くように笑った。

「いい匂いがする」
レイがそう呟き、それから二人は何も発しなくなった。












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