もう一度、名前を呼んで2
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『……エド、痩せたんじゃないの』
『食事も満足に摂ってくれないんだよね。なんとか1日1食は食べてもらってるけど……』
ジュリアが仕事に復帰した。昔の伝手をたどって人脈を作るところから再スタートだ。
『痩せて、また一段といい男になっちゃったわね』
そう。ジュリアの言うとおりだ。研ぎ澄まされたナイフのような雰囲気はこの世界で人をひきつけてやまない。本人は不健康そのものだが、死と隣り合わせの環境にいるせいでエドには違った魅力が出てきてしまった。……でも、これは良くない。
『……ああなると、良くないんだ』
エドと共にその世界を見てきたエリクはよく知っている。ああなると、人は死ぬのだ。死と近い環境でああして研ぎ澄まされていくと大抵の人は死んでしまう。そこで生き残れたらボスの側近のように簡単には死なない境地にたどり着くのだが……今のエドには明確な生きる意味がなく危険だ。
『……わたしはわたしのやり方で藍那を探すことにするわ』
『そっか……ねぇ、アイナは俺たちを捨てたのかな』
『……』
この会話を、エドも聞いているのかもしれない。ソファに深く座って目を閉じているけれど寝ていないんじゃないだろうか。
『わたしはそうは思わない。アイナはわたしたちを……エドを捨てられはしないわ』
『……どうして』
ジュリアは言い切った。どうしてそんなに自信を持って言えるんだ。もうそろそろ、俺だって逃げたんじゃなく捨てられたのかもしれないと思い始めたのに。
『あの子の日本での生活の話を聞いたことがある?アイナはエドと居た時間で愛を知ったのよ。それはもうあの子に刷り込まれてるわ。そうなったらもう忘れることなんかできないし、逃げられないのよ』
それが人間で、女で、子供なの。と続けた。
ああそうだ…ああして大人しく落ち着いた様子だったから忘れていたけど、藍那は子供だった。俺たちよりもいくつも子供で、なのに親元を離れることを選んでここへ来たんだ。
『エリクがエドの実家から離れられないように、アイナもエド本人から離れられないはずよ。小さいころに刷り込まれた愛はそうなるの。それもこんなに特殊な環境でしょう。あの子が知った愛は、平和な日本では同じ形はきっとないわ』
ジュリアの話す姿は説得力があった。確かに俺たちは特殊な愛の形をいくつも知っている。それに自分もきっとそうだ。映画や小説で描かれているのとは違った愛こそが俺たちの知っているそれだ。ジュリアはそれを言いたいんだと思う。……でもそれは、ジュリアが自分自身に言い聞かせているようにも見えた。