クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
「あの……場所の特定ってやっぱり重要ですよね」

 当たり前のことを聞いて来るヘルマンに、私は冷たい視線を送る。

「逃げる機会が訪れたとき、だいたいの場所を把握していなかったら、どの方向へ逃げるか判断し辛いでしょ? それに周りに民家が有るのを事前に知っていたら、素早く助けを求められるでしょう?」
「そうですよね……すみません、俺って役立たずですよね?」

 その通りだと思いながらも、落ち込んで項垂れる姿を見てしまうとはっきりとは言えない。 つい慰めの言葉を言ってしまう。

「仕方がないわ。緊急事態に冷静に対応するのは難しいもの」

 ヘルマンは一瞬安心した様子を見せたけれど、直ぐにまた落ち込んだ表情をして言った。

「でもグレーテ様は俺と違って、こんなときにも冷静です。さすが辺境伯令嬢ですよね」
「凄くなんてないわ。現状、脱出の術を見つけられず助けを待つだけしか出来ないんだもの」
「いえでも俺よりは……俺って昔から何をやっても駄目なんですよね」

 何を思い出しているのか、ヘルマンが鬱々とした空気を醸し出しながら言う。

 まさか、この状況で暢気に思い出話を始める気?

 いくらなんでも、そんなことは無いはず……と思ったけれど、ヘルマンは自分の世界に入り込んでしまったようだ。

「俺は剣を使えませんけど、子供の頃は手習いをしていたんです。ベルツ家はアンテス辺境伯家に仕える武家ですからね。子供たちはみんな武術を習うんです」
「ヘルマン、今はそんなこと話している場合じゃ……」

 長々続きそうな話を止めようとしたとき、ヘルマンが私の聞き捨てならない名前を出した。

「でも俺はリュシオンのせいで武術を辞めてしまったんですよ」
「……どういうこと?」
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