クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 一晩寝ても、昨夜受けた衝撃は和らがなかった。

 カサンドラは、リュシオンの事が好きなのだろうか。

 彼女はそう言った気持ちをはっきりとは言わなかったけれど、リュシオンの結婚を止めたいのはそういう事じゃないのかと思う。 

 怪我のことが有るから、単純な恋愛感情だけでは無いだろうけど。

 だけど、それよりも私を憂鬱な気持にさせるのは、カサンドラが語ったリュシオンの態度だ。

 私に黙ってカサンドラに会いに行き、婚約の事をお父様の命令だからと語ったと言う。

 カサンドラの言う事は逆らわずに何でも聞くのだと言う。

 本当なのだろうか。

 私の知っているリュシオンからは想像出来ない。だけど、リュシオンがカサンドラに負い目を持っている事は確かだ。

 彼女に償いたいと言っていたし、私とカサンドラが喧嘩をしたらカサンドラの代わりに謝ると言っていたくらいなのだから。

 こんな気持では外に出る気にもなれずに与えられた客間で鬱々としていると、ホリーがやって来て、不自然なほど明るい声で言った。

「グレーテ様。天気も良いし散策に出ませんか? 館の近くには綺麗な湖があるそうです。治安が良いので護衛を付ければ町に出てもいいそうですよ」
「そんな気分になれないわ。夜には晩餐会に出なくてはいけないんだし、それまではゆっくりしていたいわ」

 やる気のない返事をする私に、ホリーが眉をひそめて迫ってくる。

「晩餐会まではまだまだ時間が有りますよ! アトレゼではあんなに楽しそうにしていたのに、どうしてそんなに無気力になってるんですか?」
「……アトレゼは楽しかったわね」

 思い出してしみじみ言うと、ホリーが納得したような顔になった。

「リュシオン様がいなくて寂しいのですね。でも部屋に閉じこもっていてはベルツ家の皆さんも不審に思いますよ。興味深そうにベルツの領地を見て回ることも、レオンハルト様の名代としての務めですよ」
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