Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[前編]完
「――あ、そうそうあの話考えてくれた?」
カウンターキッチンの向こうで洗い物をしながら菜月が思い出したように言う。
「あの話?」
…何だっけ?
「ほら葛城-カツラギ-さんの件」
「あー…はいはい」
「もー忘れてたでしょ?」
頬を膨らませながら菜月がダイニングにやってくる。
だから歳を考えろって歳を。
「ここんとこ忙しくてな…」
「そればっかり」
「ごめんごめん」
「…で? 返事はどうするの? 先方はいい返事期待してるみたいだけど」
「ん…せっかくの話だけど」
「断るの?」
「ああ…」
「葛城さんはお姉ちゃんをごひいきにしてくれてた人だよ? それなのに断るの?」
「ああ」
「慧ちゃんもしかして逃げてない?」
「逃げる?」
「…だって……この話………小早川さんの事務所も絡んでるし」
「……」
「…やっぱり、それが嫌なの?」
「いや…」
「じゃあ何で?」
「…悪い。もうそっちの業界に興味ないんだ」
「どうして? …お姉ちゃんがいないから? それが支えだったの?」
「…菜月、この話はもう」
「慧ちゃんカッコ悪いよ!」
菜月はバンとテーブルをぶっ叩いて立ち上がった。
「そんなんだから小早川さんに恨まれちゃうんだよ!」