Distance
前を歩く村越さんがいつになく、機敏に行動するもんだから、私も後を追うしかない状態。
首を捻りながら、私はふと思った。


「もしかして、あそこに村越さんの知り合いでもいた?」
「え!?」


突然立ち止まり、大振りで振り向いた村越さんは、一拍間があってから、へへっと笑った。


「そうなんだ、実はね。奥の方のテーブル席に生徒の親御さんがいて。結構気まずいからさ、塾で言い触らされたりすると生徒にからかわれたりしちゃうし」
「そっか、そうだったんですね」


そういうもんなのか。塾講師もいろいろ大変なんだなぁ。

結局飲み屋街のビルに入っている中華料理屋に入った。個室になってて、リラックスしながら私たちはどんどん注文して消費した。


「ふうー、食った食った」


北京ダックを何皿もお代わりしていた村越さんは、足をだらんと伸ばして仰向けの体勢になった。


「私、杏仁豆腐頼むけど、村越さんどうする?」
「うーん、食べたいけど僕はやめとくよ。さすがにもう入らないなぁ、悪いけど」


お絞りで額の汗を拭いながら、村越さんはお腹を手のひらで擦った。
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