Distance
おっとっと、とバランスを崩してソファーに倒れ込む寿士を睨み見ながらも、心臓はバクバクいってヤバかった。
全速力で走ったって、こんなに早くなったことがないってくらい。動転して浅くなってしまう呼吸を繰り返して、なんとか気持ちを落ち着かせる。


「お前さ、」


前屈みになって、ソファーに座りながら寿士は、テーブルから缶ビールを手に取った。


「もしかして俺が言ったこと気にしてんの?」
「は?…言ったことって?」
「ほら、こないだ、ろくな経験もないのに口出しされたかねーとか。言ったじゃん。なほに」


…うん、言った。
それは、実のところ、こないだが初めてでは無かった。
これまでに何度も言われてきた。

色気がないとか、そんなんだから男が寄ってこないんだだとか、私に恋愛経験が無いことを、寿士は馬鹿にしてた。


「だからあんな男と付き合ってたり?」


残念ながら空だったようで、寿士は軽く振った缶を、力任せに握り潰した。


「な、なにバカなこと言ってんの…?」


と反論したものの、きっかけが寿士であることに間違いなかったので、弱々しい言い方になってしまう。

悔しくて、惨めで、語尾が震えたとき。


「だったら、俺にしてみる?」
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