Distance
呼吸の仕方を忘れた。
さっきまであんなに煩かった心臓さえ、作動してるか怪しいくらい、不気味な静けさが私の心の辺りを覆った。
下降気味だった目線を、緩やかに上げる。
ふっと、小さく溜め息を吐いた寿士は、堪えるように笑った。
「…な、なにふざけたこと言ってんの?彼女に悪いと思わないの…!?私は寿士みたいな浮気者なんかお断りだし!苦労するの目に見えてんじゃんっ!」
一息に、そこまで言って私は部屋を飛び出した。
玄関のドアを開け、焦って隙間に体を挟めそうになったとき。
「覚えてるよ。みんなでコズミックランドに行ったときのこと」
消え入りそうなくらい小さな寿士の声が、耳に届いた。
近くの通りを行く通行人は、透明の傘を差している。霧雨のような細かい雨が、さーさー降っている。
近所迷惑なくらい、勢い任せにドアを閉め、寿士との空間を遮断した私は、すっと呼吸をした。
ドアに背中を凭れ、雨にけぶった空気を吸い込む。
気持ちを落ち着かせて、ちゃんと足が動くことを確認して、私は隣の、自分の家のドアの前に立った。若干ふらふら、覚束ない足で。
だって。
『だったら、俺にしてみる?』
あれは結構強烈だった。
もしも、寿士に婚約者がいなかったら、こんな軽い誘い文句でも、迷わず受け入れていたに違いない。
さっきまであんなに煩かった心臓さえ、作動してるか怪しいくらい、不気味な静けさが私の心の辺りを覆った。
下降気味だった目線を、緩やかに上げる。
ふっと、小さく溜め息を吐いた寿士は、堪えるように笑った。
「…な、なにふざけたこと言ってんの?彼女に悪いと思わないの…!?私は寿士みたいな浮気者なんかお断りだし!苦労するの目に見えてんじゃんっ!」
一息に、そこまで言って私は部屋を飛び出した。
玄関のドアを開け、焦って隙間に体を挟めそうになったとき。
「覚えてるよ。みんなでコズミックランドに行ったときのこと」
消え入りそうなくらい小さな寿士の声が、耳に届いた。
近くの通りを行く通行人は、透明の傘を差している。霧雨のような細かい雨が、さーさー降っている。
近所迷惑なくらい、勢い任せにドアを閉め、寿士との空間を遮断した私は、すっと呼吸をした。
ドアに背中を凭れ、雨にけぶった空気を吸い込む。
気持ちを落ち着かせて、ちゃんと足が動くことを確認して、私は隣の、自分の家のドアの前に立った。若干ふらふら、覚束ない足で。
だって。
『だったら、俺にしてみる?』
あれは結構強烈だった。
もしも、寿士に婚約者がいなかったら、こんな軽い誘い文句でも、迷わず受け入れていたに違いない。