Distance



「嫌ね~、今日も雨なんて。洗濯物が全然乾かなくて困ってるのよね」


客足が落ち着いた、昼下がり。
店長の奥さんが、店の外を見て言った。前を通る人は、足元で跳ねる水溜まりを気にしながら歩いている。


「梅雨時ですからねぇ」


私はトレイを磨きながら言った。


「でも、これじゃあ七夕に天の川が見えないんじゃないかしら」


店長の奥さんは、店内に飾り付けた笹の葉を見上げ、困ったように顎に手を当てる。


「毎年降りますよね、この時期」
「そうそう、神様も意地悪よね。一年振りの二人の逢瀬が見えないように雨雲で隠してあげてる、って説もあるけど、せっかくのデートなんだから晴れてた方がいいわよねぇ」


言い終えた奥さんの表情が、それまでより遥かにぱっと明るくなった。「あら、いらっしゃいませ~!」出入り口の扉が開き、寿士が入って来たからだ。
入店してきた寿士は、髪の毛からぽたぽたと雨の滴を垂らしている。


「まあ、濡れたままじゃ風邪引くわよ?今タオル持って来るわね!」と、よーいどんの体勢になった奥さんに、「大丈夫です、どうせ帰りも濡れますから」寿士は礼儀正しく一礼して言った。
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