Distance
私は必要以上にてきぱきとレジで寿士のお会計をして、「いつもとなんら変わらないですけど!?」きっぱりと早口に言った。


「あ、あら…そう?」


店長の奥さんは、ぱちぱちと瞬きをした。


「ありがとうございましたー!」


ロボットみたいなぎこちない動きで、寿士を出入り口まで見送る。
さっきよりも雨は小降りになってて、良かったなと思った。寿士は傘を差して歩く人を分け、足早に職場に戻ってく。


「あ…」


その姿を見つめていると、誰かが差している透明の傘が目に入った。
昨日、ひょんな流れで村越さんに寿士の傘を貸したんだっけ。だから今日、あんなに濡れちゃって…。

と、気がついた矢先。

もうひとつ、妙なことに気がついた。
私の目に止まったその透明な傘が、店のちょっと先の通りで、動かずにいる。あそこに信号なんて無いのに。

立ち止まって、こちらをじっと眺めているように見える。距離もあるし、通行人に遮られて良く見えないのだけれど。
まるで、建物の影に体半分を隠して、こちらを窺っているような……。


「なほちゃん?」
「ぎゃあ!」


突然背後からぽんと肩を叩かれて、私は体を跳ね上がらせた。
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