Distance
「ご、ごめんね?そんなに驚くと思わなくて…」


振り向くと、店長の奥さんは私の盛大なリアクションに若干引き気味に言った。


「い、いえ…すみません、私の方こそ大声を上げちゃって」


へらへらと愛想笑いしながら、私はもう一度同じ方向を見る。すると、もうさっきの透明の傘は見当たらなかった。

ホッとして、胸を撫で下ろす。

気のせい……だよね。
実のところ、なんか今日一日、誰かに見られてるような視線や気配を感じていたけど。

きっと昨夜、寿士の部屋から出たときに、透明の傘が三日月荘の近くで止まってるように見えた気がしたから。偶然が重なって、考えすぎてるだけかもしれない。

透明の傘なんて世界中にありふれてるし、差してる人はたくさんいるじゃない。まさか特定の誰かが、私の周りをうろちょろしながら監視してる?なぁんて疑うのは自意識過剰よね。


__と、思ったんだけど…。
それからの数日は、不意に視線を感じる気配があった。

それは、お昼時の混雑ピーク時に、レジでお会計をしていて必死に手元ばかりを見てるとき。
周辺視野に、黙ってこちらを見ているような人物が映るのだ。ハッとして顔を上げると、そんな人物などもうどこにもいないから不気味で。
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