Distance
「えー、大丈夫ですよ。たとえ迷子になったとしても、このご時世携帯さえあれば大事にはならな…」と、言い掛けたのも束の間。


「そうだ!ほら、手、出して?」


小刻みに首を傾げた村越さんが、はにかみながら右手を差し出した。「はぐれないように、繋いでいよう?」


失礼ながら、言い慣れてないような芝居がかった口調が、ちょっと微笑ましいなと思った。


「はい、じゃあ…お願いします」


私はサンタと星空の下で草原を散歩するような気分で、相手の手のひらに左手を乗せた。
でも、期待したふわふわじゃなかった。感触は汗ばんでベタつき、一瞬、反射的に離してしまうところだった。

…バカだな、私。
当たり前じゃない。
村越さんは人間なんだから。クマのぬいぐるみじゃないんだからね。


「どこから回る?乗り物?それとも川の方に行ってみる?」
「ああっ、えと、村越さんのご希望は?」
「僕はどこでもいいよ。なほちゃんと一緒なら」


村越さんは人間の、大人の男。
ときには甘い言葉も使う。


「…じゃあ、あれに乗りたいな」


私はたった今、長いスロープを下ってきたボートを指差した。
乗客から、きゃあ、と一際大きな歓声が上がる。着水するとき、ざぶんと大きな水飛沫が上がるのだ。
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