Distance
…懐かしい。

高校の卒業記念で、書道教室のみんなで来たとき、あのボートに乗った義仁先生のシャツがびしょ濡れで寒くなって、寿士がパーカー貸してあげたんだっけ。
私、そのとき飲み物を買いに行ってて、その場に居なかったから、そんなこと露も知らずに。

寿士が高校卒業したら引っ越す、と噂で聞いて、もう会えなくなっちゃうくらいなら……そう勇気を振り絞り、告白しようとした。


「よしっ!じゃあ混んで並んでるかもだけど、行ってみようか」


俄然楽しむ気満々の村越さんに手を引かれ、歩き出す。途中、忘れもしない、あの赤いベンチの真横を通り過ぎた。

7年前の私は寿士に告白しようとして、でも上手く言葉にできなくてもどかしくて。勢い余って、赤いベンチに座っていた寿士に、後ろから抱きついたのだ。
若気の至り、ってやつ?


『なほちゃん?もしかして、人違い……してない?』


けどそれが、寿士のパーカーを着た義仁先生だったんだよね。

…ほんと、バカだね、私。
恥ずかしくて申し訳なくて、告る意気込みもぷっつり萎んだ。

寿士が炭酸飲みすぎてお腹壊して、トイレに籠ってたからその現場を見られなかったのが唯一の救い。

私の長年の片想いに気づいていた義仁先生には同情されるわ、引っ越すとかいいだけ騒いで棲み始めたのが近所の三日月荘だわ。

オチが一体何個つくの?っていう…。


「うわ~、結構混んでるね。40分待ちだって」
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