Distance
さっき、私に一夜を共にしてくれと、テーブルに引っ付けた額から。

事態を飲み込めずに、茫然としている私に、女性は深呼吸してからキッと目を尖らせて。


「村越の妻です。」


と、一言。短く自己紹介。


「!?」


声の出し方を忘れた。

妻……?ってことは、結婚してたの…?

騙されてた?まだ、言わなかっただけ、とか?

けどこれって、不倫だよね?!

う、嘘!!

映画やドラマじゃあるまいし……。


「その様子じゃ、知らなかったみたいね。」


頭の中がごちゃごちゃにこんがらがって、顔が強張ってゆく私を見て、村越さんの奥さんと名乗る女性が静かな口調で言った。
いや、口調こそは静かだったけれども、その言葉の奥には堪えきれない怒りや憎しみがもう、爆発寸前でギリギリのところで制御されているのだろう、というのが表情から見て取れた。

鬼気迫る顔で彼女は、私の方に近寄った。


「慰謝料請求されたくなきゃ、早く消えなさい!」
「お、おおおおいっ、こんなとこで喚くなよ、久子!」


私に詰め寄ってきた女性の肩を掴み、村越さんが引っ張った。
テーブルにぶつかる二人を避けるため、私もおずおずと椅子から立ち上がった。
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