Distance
…ずるい、反則。
こんな弱ってるときに、そんな風に心底ホッとしたように笑うなんて。
婚約者がいるとわかっていながら、ドキッとしてしまう。

それに、あんなことが一気にあって、まだ頭の中を整理しきれないでいるけれど。肩が上下するほど必死で駆けてきてくれて、どんなに私を心配してくれてたのか分かって。嬉しかった。

まあ、幼馴染みとして、だけど。


「…ありがとう、寿士。いろいろと」
「おう、珍しく素直だな」


余計なことを言って、寿士はひひっといたずらに笑った。


「けど、ほんと、良かったな」
「は?なにがよ、どこがよ。これのどこが良かったのよ」
「なほは慰謝料請求されずに済んだし。俺はお前のばあちゃんに恩売っとけば安い家賃で三日月荘に住めるし、ウィンウィンじゃん。不貞も未遂に終わったみたいだし、な。」


ムスッと言い返した私に、寿士は近づいてきて畳み掛けるように言った。

…それって。
村越さんと、一夜を共にすることがなくて良かった、ってこと?


「ほら、帰るぞ」
「う、うん…」


プイッと回れ右をして、先に医務室から出ていった寿士の後を、私も追った。
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