Distance
…ああ。
まったく今日はなんて悲惨な日なのだろう、と。
濡れた石に滑ってバランスを崩し、川に落ちる直前、スローモーションで両手をバタバタ藻搔きながら、私はどこか冷静に思った。
このまま洋服がびしょ濡れになって、膝なんか軽く擦りむいたりして、寿士にゲラゲラ笑ってバカにされるんだ、どうせ。
踏んだり蹴ったりだ。泣きっ面に蜂だ。
川の水、冷たいだろうなぁ。寒いだろうな。
きっと、風邪とか引いたり諸々で、しばらく寝込むだろうな…なんて、もうそんな冴えない自分を諦めかけた矢先。
「__おわ、っと。」
どれも、予想通りにはならなかった。
「大丈夫か?」
バシャバシャっと足元で水が跳ねたかと思ったら、すぐに、ふう、という安堵の溜め息が耳のすぐそばで聞こえた。
私の体はちっとも冷たくなんかない。むしろ温かい。
それは二の腕はがっしりと掴まれ、背中は支えられているから。寿士の胸板で。
「う、うん…」
私は信じられなくて、夢見心地で頷いた。
川を渡ってわざわざ、助けに来てくれたってことだよね?それにしてもあっという間の早業だった。