Distance
「なほさ、このプレゼントをずっと目で追ってたよね。なにやら凄まじい殺気を感じて、音止めなきゃ!って俺、かなり焦って合わせてあげたんだぞ?」
「……」


私はきまりが悪くて俯いた。


「これからもあいつと、仲良くしてやって」


最後に私の頭にぽんぽん、と手のひらを乗せ、義仁先生は帰って行った。
取り残された私は、しばらく玄関から動けずにいた。


「け、結婚、しない……?」


声に出してみたら、言葉が耳に返ってきて、現実感が増してきて、ふっと力が抜けて。
私はぺたりと床に座り込んだ。


「じゃああの女の人は、本当にただの職場の人、ってこと…?」


寿士のことを諦めて、長かった片想いに区切りをつけて。
寿士に固執しないで、世界を広げなきゃって、思った。

けど、私__


「まだ、好きでいていいの…?」


手を伸ばせば届く距離で、もう少し足掻いてもいい?


『だったら、俺にしてみる?』


あの言葉。
まだ、有効なのかな…。

しばらくして、おばあちゃんが帰って来て、「あんた、こんなとこでなにやってんの?」と、怪訝そうに言われた。

すくっと立ち上がると、私は行進みたいにきびきび歩いてリビングに戻り、大分冷めたコーヒーを喉に流し込んだ。
時計を見たら、もうお昼近かった。
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