Distance
デジャブだった。
私と村越さんは驚いて、声の主を凝視した。


「だろ?結局、一回やれればあとはどーでも良かったんだろ?奥さんにバレてもバレなくても、それが目当てだったんだろ」


傘も差さずに、今日もお得意の忍者のような忍び足で現れた寿士は、悪びれもせず飄々と言った。


「あんた、何しに来たの」


唐突に話を振られ、村越さんはおどおどしながら傘を拾う。


「っき、傷つけたことを、謝りに…」
「ああ、だったら帰って。」


間髪入れずに言った寿士は、半ば強引に私の肩を組み、今までに見たこともないくらい冷たく、鋭い目で村越さんを見下ろした。


「ほら、なほには俺がついてるから、こうして。傷なら俺が癒しますんで」


そして、勝手に私の手を操作して鍵を差し込み玄関のドアを開け、私の体を部屋の中に押し込んだ。


「ちょ…!?」っと、なにするのよ!という私の声は、「金輪際、関わんないでください。」とても良く澄んだ、良く通る寿士の声に、搔き消された。


「__てかあの傘、俺のなんだけど。」


またしっかり持って行きやがって、と苦々しく呟いた寿士は、煩わしげに濡れたスーツのジャケットを脱いだ。


「まあ、あんなんくれてやるけどな。手切れ品として」
「……」
「あ、怒ってる?勝手なことして」
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