Distance
ただ惰性で、かろうじて呼吸だけしているような感覚になる。

寿士の気持ちは、“ごめん”。この一言に全て集約されている。そう理解したら、目の前は真っ黒な暗闇の世界。

私、フラれた…らしい。


「ごめん」


もう一度、追い打ちを掛けた寿士は、テーブルに肘を付いて頭を抱えた。


「なんか……これが現実かって、実感が湧かねー」


まるで頭の中を撹拌するようにわしゃわしゃと、湿った髪の毛を掻いた寿士は、「ちょっと一筆書いていい?」篭った声で言った。


「、は?」い、一筆?
「頭ん中整理すっから。なんか書くもんない?俺筆ペンなら持ってるんだけど」


筆ペン常時携帯してる訳?
さすが、書道の先生の弟…。

と感心している間に、寿士は脱いで畳んでいたジャケットの内ポケットから、本当に筆ペンを取り出した。

私は言われるがまま紙を探して、バッグの中をまさぐると、短冊が数枚出てきた。水に濡れ、部分的にふやけている。


「はい…これでもいい?」


私は恐る恐る、短冊を一枚寿士に手渡した。


「なにこれ…短冊?旬なもの持ってんな、なほのくせに」
「…昨日コズミックランドで配ってて。で、なにを書くの?」
「せっかくだから願い事系?…お前も書けよ」
「……」


願い事、って…。んな殺生な。
フラれた直後に書かせるかよ。

逡巡しているうちに、寿士はもう書き終わったようで、短冊をさっと裏返しにした。


「手首、まだ痛いの?」
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