Distance
躊躇っていると、寿士に勘違いされてしまった。
手首のズキズキなんて、たった今負った心の生傷に比べたらどうってことないのに。


「手伝ってやろうか?書くの」
「え?」


立ち上がった寿士は、ぽかんと口を開けたままの私の背後に回ると、二人羽織のように、後ろから私の右手を持ち上げた。


「ちょ…ちっ」近いんですけど…!?


後ろから包み込まれるような、贅沢な体勢。では、あるんだけど。
これじゃあ背中とお腹が隙間なくぴったりで、尋常じゃない私の心臓の音が、振動して伝わってしまう。

一里も千里もない。
幾ら何でも近すぎる…!


「これ。思ったより緊張すんな」


緊張で硬くかじかんだ私の右手を柔らかくほぐして、自分が使ってた筆ペンを持たせた寿士は、うなじの傍でくっと笑った。


「なんか、興奮する。」


最後にぎゅっと、筆ペンを持つ私の右手を握って、「こ、興奮」変なイントネーションでおうむ返しした私の顔を覗き込んだ。


「そ。無防備すぎんだもん、お前。」
「……へ?」
「結構体付きも女っぽく成長してんのな」


小さく振り向いた私に、寿士は真顔で言った。


「っバカじゃない!?」
「しゃーねーだろ、俺男の子だし」


肘で思いっきり押し返そうとした私をいとも簡単に制した寿士は、「そういうこと考えるの本能だし。それに、」と。平然とした顔で続けた。


「小さい頃から知ってるからかなぁ。なんか無性に、ぐっとくる」

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