Distance
「さっきの男、どっかで見たことあるなーって思ったら、あれに似てんな。ほら、なほが昔一緒に寝てた、茶色いクマのぬいぐるみ」


どきん、と心臓が高く鳴って、私は体を硬直させる。


「そ、そう?てかぬいぐるみに似てるなんて、失礼だよ村越さんに」
「そんなに夜が寂しいんなら、俺が相手してやろうか?」
「!」


一瞬、息をするのを忘れた。
見開いた目が渇く頃、ひひっといたずらに笑う寿士が、「おやすみ、なほ。ちゃんと鍵かけろよー」ウインクみたいに片目を器用に細めて言った。

静かに寿士の部屋のドアが閉まり、取り残された私はぎこちない動きでドアを開ける。


「…っバカにしやがって……っ!」


玄関に入って、たたきに靴を脱ぎ捨てながらつい声が大きくなり、私は咄嗟に口を手のひらで覆った。

いくら寂しくたって、あんな寿士は願い下げだ。
私はふかふかで、抱き心地がいい人がいいんだ。

さすがにもう寝るときは抱いてないけど、クマのぬいぐるみ(サンタ)は今も、枕元に飾っている。
サンタ(18♂)は私が7歳の頃、クリスマス会のプレゼント交換で、私の手元に回ってきたものだった。

電気を点ける前の暗い部屋。
ベッドに腰掛け、毛深くてモコモコのサンタをぎゅっと抱き締めた。
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