Distance



「__クロワッサン焼きたてでーす。いかがですか?」


お昼時は、周囲のオフィスビルに勤めるサラリーマンやOLさんたちがこぞって詰め掛けるので、てんやわんやの大忙し。

クロワッサンがたっぷり入ったバスケットを、頭の高さに掲げて持ち、人波を縫うようにして私は歩いた。

当店人気のサクサククロワッサン。店頭に並べたそばから、四方八方からトングが伸びてきて、ひとつ、ふたつとどんどん無くなる。


「ご試食もございますので、よろしければどうぞー!」


賑やかな店内で、私は声を張り上げた。
それからレジに入って、打つ、包む、渡す、笑顔……を何十回と繰り返し、もう筋肉が麻痺して頬が引き釣ってきた頃。


「なほちゃん、見てみて新作~!」


一緒にホールで働いてる店長の奥さんが、白っぽくふっくらとしたパンがたくさん乗ったお盆をカウンターに置いた。
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