マリッジブルーの恋人たち
「えっ、玲二?」

 玲二がいることは、思いもよらなかったのだろう。自分の格好やなんでここにいるのか弁解するより、玲二が気になるようであった。

ーどうして彼女の部屋にいるのか?しかも、上半身裸で。ー

 本当はちゃんとききたい。それが事実でも、言い分けでも構わないから。そんな考えを巡らせていると、昴の顔色がわるくなるのが分かる。

 真偽を見極めようとに、昴をじっと見つめると、昴の後でガチャと音がした。

「誰か来ました~?」

 その緊張感がまるでない声の主は、七瀬比菜子だった。

 ここが彼女の部屋だとは事前にわかっていたから、彼女がいるのは想定内だ。

 だが、短めのバスローブを身につけ、洗い立てのように髪を濡らし、気だるそうに立ってる彼女の格好をみて、私も、静華も玲二も、呆然としてしまった。

 私たちの視線を追うように振り返る昴も驚いて、息を飲むのが分かる。そして、自分の格好を振り返って慌てているような感じが窺えた。

 昴は、ズボンしか履いていないため、何もなかったとは言い切れない様子だ。

 好きにすればと言ったから、好きにしたと言われたらそれまでだ。

 でも、何でこうなったのか状況が飲み込めないし、説明も聞きたくないと葛藤してる自分から出た言葉は、業務的な言葉でしかなかった。

「……これ、彼女に頼まれた資料だから。」

 慌てて振り向いて、説明しようとする昴に、業務的に資料を渡した自分がどんな顔をしているか分からなかった。

「えっ?資料?」

 手渡された資料を昴が受けとると、すぐに玲二の声がした。

「玲奈、帰るぞ。」

「………。」

 資料を確認している隙に、玲二に手を引っぱられた。

 その瞬間、口角が上がり薄気味悪く笑う彼女と、目があった気がした。

 手を引っ張られ引きずりながら考えるのは、何故責めることが出来ないのか。何故真実を聞くことが出来ないのか。何故、素直になれないのか。

 後ろでは、静華が昴を罵る声が聞こえる。
 
 本当にこの時ほど、結婚に疑問を感じたのは初めてだ。

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