あの夏の続きを、今
「で…何でコンクールの後とか高校生になってからとかなの?どうせなら今すぐにでも告っちゃえばいいんじゃない?」
少しずつ人通りの少なくなっていく横断歩道の方を眺めながら、リサが言う。
「だって…コンクールが終わる前に告白したとして、もし、それで終わってしまったら……」
私は遠くに広がる夕闇をぼんやりと見ながら答える。
「もし、それで、だめな結果で終わってしまったら、私、絶対にもうコンクール頑張れなくなっちゃうよ…
私が吹奏楽をこうして頑張っているのは、やっぱり、松本先輩のことが好きだから、松本先輩のために頑張りたいから、っていう想いがあるからこそだし」
「そうなの……でも、いずれは告白しよう、って意志はあるんだね?」
「うん。上手くいくかなんて、言ってみないと分かんないしね。
それに、やっぱり想いは伝えないと、すっきりしないしね。
こんなにも強く想っているのは私だけ、ってのはやっぱり苦しいから……私は、私が先輩をこうして強く想っていることを、先輩にも気付いてもらいたい」
「それでこそ志帆だよ!とりあえず、伝えようって強い意志があるのは安心した!」
「リサ、なんかお母さんみたい」
「よく世話好きって言われるの、私」
「でもね、一つ心配なことがあってね」
「何?」
「もしも、もしも告白して、だめだったら……
東神に行ってたら、もう今まで通り自然な先輩後輩じゃいられなくなると思うんだ。
浜百合に行こうものなら……もう二度と松本先輩と会うことも話すことも、演奏を聴くことも聴いてもらうことも、できなくなっちゃうと思うの。
だから、そこで永遠のお別れになってしまう可能性もある…
その『永遠の別れ』を受け入れられるだけの覚悟が、私にはまだないんだ」
赤信号で車が止まり、静かになった交差点を横目に、私は思いを語った。
「でも、志帆ならきっと上手くいくって信じてるよ!弱気になっちゃ駄目だよ!ね?言ってみるまで分からないってさっき言ったのは志帆でしょ?
それに、永遠のお別れになるかどうかは、そもそもどっちの高校行くか決めないとわかんないんだし!まずはそっちが先でしょ!」
「た、確かにそうだね。うん、ありがとう、リサ。まずは、浜百合に行くかどうかを決めなきゃね」