騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
 


「だが……王太后からすると、昔から俺は、憎しみの対象でしかなかった」


自分の夫を誑かした女の子供。

そして失ってしまった自分の子供……。

けれど、自身のプライドを守るためには、ルーカスを受け入れるしかなかった。

王太后は、どうして自分がこんな目に遭うのだと思ったのだろう。

どうしてルーカスだけが無事に産まれ、自分の子はこの腕で抱けないのかと悲しみに暮れたのかもしれない。


「昔から、あの人に愛された記憶もないしな」


だけど。たとえそうだとしてもルーカスには、なんの罪もないのに。

身勝手な都合で運命を決められた幼い彼は、今日までどれだけ苦しんできたのか。


「俺は王太后陛下が産んだ子として育てられたが、母の愛というものに触れたことはない」


言いながら、小さく笑ったルーカス。ビアンカは一瞬、ルーカスが自分の運命を嘆いているのかと案じたが、その目に悲しみは滲んでいなかった。


「まぁ、生かされただけでも十分、幸運だ。第二王子として、それなりの教養も得ることができたし、不自由のない暮らしも得られたからな」


たとえ教養が得られても。不自由のない暮らしができても、愛がなければ幼い彼は孤独だったはず。

けれど彼は、それを幸運だと言い切った。命があっただけで、良いのだと……。


「今は、お前もいる」


そっと、微笑む彼はいつだって温かい。

ビアンカはルーカスの、真っ直ぐに前を向く姿勢が好きだと思った。

自分の運命を悲観せずに受け入れて、彼は彼なりに今日まで戦ってきたのだろう。

幼い頃──庭園で一輪の薔薇を手に立つ彼の、面影はここにはない。

大人になった彼は強く、気高き一人の男性に、成長したのだ。

 
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