騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「……ビアンカ」
「……っ!!」
甘く、痺れるような艶のある声で再び名前を呼ばれて、身体がビクリと震え上がった。
いつの間にかビアンカの頭の中は、粗相をしてはいけないと、その思いでいっぱいになっていた。
ただでさえ、失礼なことをしてしまったあとなのだ。これ以上の失敗は、いくらなんでも許されることではない。
「ビアンカ、目を開けろ」
知らぬ間に、シーツを掴む指先が震えていた。
「そんなに強くシーツを掴んだら、爪が折れてしまう」
それでも全身の力を抜く方法すら、ビアンカは見失っていた。
「お前が怖いのなら……今日はやめよう」
「…………え」
「怖がるお前を抱いても、なんの意味もない。俺はこんな風に無理矢理──お前を抱きたいわけではない」
けれど突然、そんなことを言ったルーカスは、震えるビアンカの額に触れるだけのキスをした。
その優しい口付けに、強張っていた身体からゆっくりと力が抜けていく。
「やっと……俺を見たな」
「ルーカス、様……?」
視線の先には相変わらず、ビアンカを愛おしげに見つめるルーカスの黒い瞳。
月明かりを浴びた彼を前にビアンカの胸は甘く高鳴って、息をするのも苦しくなった。
「ルーカスでいい」
「え……」
「夫婦になったのだから、変な気を遣う必要はない。それに俺自身が、お前にはそう呼んで欲しいと思っている」
「……でも」
「お前は、言うとおりに俺の名を呼べばいい。……命令だ。おとなしく、俺に従え」
──命令。その甘い命令に、ビアンカの胸は再び甘く高鳴ってしまう。
ルーカス様……ルーカス。本当に彼の言うとおり、そう呼んでも良いのだろうか。