クラウンプリンセスの家庭教師
プロローグ
 王都のど真ん中、戴冠式や王族の婚姻を行う大聖堂。居並ぶ家臣、選ばれた領民の前で、ベアトリクスは誓約した。
 次期国王となる王女。クラウンプリンセスとして。
クリュザンテ王家は後継者を男子としていたが、ベアトリクスの父王は病弱で、また、祖父も早生した為、中継ぎとして祖母が、伯母が、女王としてたっていた。
 その為、女王候補そのものは特別に珍しいものでは無い。ただし、それは、後継となる男子がいる場合の事。
年若い彼女には子は無く、腹違いの妹はいるが、男子の兄弟はいない。母も父も若いが、病弱な父が子供を作れるとは思えなかった。
 中継ぎでは無い、正真正銘の女王となる為の、初めてのクラウンプリンセス。王となる義務をもった王女としては初めてとなる。
 背はひょろりと高いが、肉の薄い体は少年のようで、真っ黒で硬い髪をきつく結い上げ、装飾の少ないドレスを纏った様は、プリンセスというよりも巫女と言う方が似つかわしかった。

 反対に、王都のはずれ、国境の山脈を見上げる辺境の地。国境警備と、中央の学院を追われた賢者達の住処を兼ねた象牙の塔で、カイ・グロースは旅立とうとしていた。
 クラウンプリンセスの家庭教師の一人として。
失脚した王家に連なる血筋の彼ら一族は、百年の時を経て、復讐の為に立ち上がった。本来であれば、皇太子としてたっていたのは彼であったかもしれない。先祖の恨みを、正しい王を。その為に身につけたあらゆる術を、一族最後の一人である彼は、一身に背負って、今、宮廷に向かう。出自を隠し。殺意を隠し。
 鍛えられた体躯。血筋の為か、高貴な整った顔立ち。しかし、金色の髪は王子然としているのに、青い瞳は冷ややかで、家庭教師よりも、辺境警備の傭兵と言った方が似つかわしかった。

 ベアトリクスは王都で願う。良き女王になる事を。
 カイは王都に向かう。王女を籠絡し、傀儡とする為に。

 国の中央と辺境で、「王として国を治める」「王を操って国を治める」という、目指す場所が同じな二人が行動を起こしていた。二人が出会うのは、この数日先。ベアトリクスが世継ぎの為の離宮の主となった日の事。
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