強引社長といきなり政略結婚!?
出会って五秒でプロポーズ!?


手袋にマフラー、厚手のコート。完全防備で自転車のペダルを踏む。
キンキンに冷えた二月の空気は、私の耳を今にも凍らせようとしていた。

息を白く吐き出しながら自転車を停め、サイドスタンドを立てかけた。
マフラーと手袋を取りながら裏口から入る。

上着を脱いで肩甲骨まである髪をシュシュでまとめ、黒いエプロンのリボンを腰で結んだ。
ロッカー備え付けの小さい鏡で笑顔の確認。


「よし、行こう」


軽く気合を入れ、厨房へ続くドアを開けた。
そこでは、この店の主、田辺さんが左手でフライパンを忙しなく振っている。


「田辺さん、お疲れさまです」


声をかけると、日焼けした顔に白い歯を見せて笑った。


「汐里(しおり)ちゃん、おつかれ!」


私、藤沢汐里は三ヶ月前から、喫茶店【木陰】(こかげ)で週に五日ほどアルバイトをしている。

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