強引社長といきなり政略結婚!?

「今、弟のところへ行っております」


顔ぶれに父がいないことに気づいた朝比奈さんが尋ねると、母は穏やかに答えた。


「……弟さんとおっしゃいますと、専務の」


藤沢ゴルフ倶楽部を傘下に入れるということで、朝比奈さんもうちの内情には多少なりとも詳しくなっているみたいだ。


「そうなんです」


実のところ、父の社長という肩書は“飾り”の意味合いがとても強い。実権を握っているのは、彼の実の弟であり、専務でもある孝志(たかし)おじさんのほうだ。
孝志おじさん曰く「兄さんはのんびりしたところがあるから経営には向かない」のだそうだ。
確かに、孝志おじさんは頭が切れるし、野心にも溢れている。子供のころに宿題をみてくれたのは、父よりも孝志おじさんだった。理路整然とした説明がわかりやすく、子供心に“おじさんは頭のいい人”と思ったものだ。

幼いころ、おじさんに将来なにになりたいかを聞かれて、『お嫁さん』と答えた私に、『もっと貪欲になれ』と言われたこともある。
今そんなことを回想して、私にもそんなにかわいい時があったのかと、自分のことながら微笑ましく思ってしまった。

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