オフィスに彼氏が二人います⁉︎
「今日は、本当にありがとうございました」
アパートの前まで車で送ってもらい、車を降りたところで彼にお礼を言って頭を下げた。
「こちらこそありがとう。楽しい時間を過ごせたよ。……またね」
そう言って顔の前で小さく手を振った後、車は発信していき、やがて見えなくなった。
家の鍵を開けて、部屋の電気を点けた後、私は吸い込まれるようにベッドの上に仰向けにダイブした。……そして。
「……疲れた……」
無意識にこぼれた独り言に、一瞬にして罪悪感を感じ、誰に聞かれたわけでもないのに思わず右手を口に充てた。
私ってば……あんなに素敵なデートを用意してもらって、『疲れた』とか最低じゃない!?
……楽しくなかったわけじゃない。ドキドキしたし、素敵な時間だった。
だけど、彼の前だとつい、自分を作ってしまう。大人な彼に釣り合うようにって、空気を読むことで精いっぱいになりかける瞬間もあった。
私の好みのタイプは、クールで大人な男性。時山部長はそんな理想にピッタリだ。
でも、素の自分を出せないような恋愛が、私の理想の恋愛なんだっけ……?
そんなことを考えながら、バッグに入れていた携帯をなんとなく取り出す。
すると、ちょうどLINEメッセージが届いた。
それは、久我くんからのものだった。
【帰ってきた?】
そうか。今日私が時山部長と会っていたこと、久我くんは知ってるんだった。
どういう意図でこのメッセージを送ってきたのかはいまいちわからないけど、とりあえず【今帰ってきたとこ】と返信した。
すぐに既読になり、またメッセージが送られてくる……と思ったら、電話がかかってきた。
電話? 久我くんとは長い付き合いだけど、電話をしたことは今まで一度もなかったから少し驚いた。