オフィスに彼氏が二人います⁉︎
「……彼には、フラれてしまったので。時山部長のお家でのあの一件で、気持ちが冷めたと」

「あれは俺が百パーセント悪いのであって、嵩元さんは何も悪くない。俺が言うのもなんだけど、君の気持ちを彼にしっかりと伝えれば、ちゃんと届くんじゃないだろうか」

「……」

「そもそも、君への気持ちが冷めたなんて嘘だろうし」

時山部長のその言葉に、私はひと呼吸置いてから、力なく首を横に振った。


そして。



「……久我くんって、ああ見えてちょっと変な人なんです。
いつも側にいたのに、三年間想いを告げてくれなかった。
同じベッドで寝たって、何もしてこなくて。
私にはあくまで友だちとして接する、って自分で決めていたんでしょうね。
自分で決めたことは、よっぽどのことがない限り、そのルールを破らない人なんです」

そんな彼が、友だちとしての壁を自ら壊して、私に告白をしてくれた。


……それだけで充分幸せをもらった。



「そんな彼自身が、私と別れることを決めたんです。もう一度私と付き合おうとは考えないと思います」


別れることを選択したのは、きっと私のことを想ってのことだろう。


もう二度と、恋人同士としてかかわることはないのだろう。



そう思ったら涙が出そうになってしまったけど、慌てて引っ込めた。

時山部長の前では、泣いてはいけない。私にそんな資格はない。私だって、彼を傷付けたのだ。


でも、ギスギスした関係では終わりたくない。

私は彼の目を真っすぐに捉えて、なるべくハッキリとした口調で言った。


「時山部長。短い間でしたが、こんな私と付き合ってくださってありがとうございました」


……こうして、ちゃんとお礼を伝えてから終わりにしたかった。
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