オフィスに彼氏が二人います⁉︎
「……はい?」

突然の発言に、久我くんは目を真ん丸くさせて、さすがに私の顔を見つめる。


「私は年上の大人な男性が好きだし、顔の系統も、久我くんみたいに目がクリッとしてる人より、一重の切れ長の人が好きなの。髪も、黒のストレートの人が好き」

「はあ……?」

「料理は美味しかったし腕前はほんとにすごかったけど、彼氏が料理得意だと私の立場ないじゃんって思っちゃったりもするし、LINEのスタンプも全然かわいいやつ使ってくれないし……。


なのに、好きになっちゃったんだもん!
今まではずっと、〝大人な男性だから〟とか、〝見た目が好みだから〟とか、理想の条件に当てはまる人を好きになってた。
だけど、久我くんは違うの! 条件とか関係なくて、久我くんだから好きなんだよっ」

最後の方は、興奮して思わず声が大きくなってしまった。
人通りの多い駅だからそんな私の姿はそこまで目立っていなかったと思うけど、近距離を横切っていく人たちからの視線はチラチラと感じた。急に顔が熱くなる。

……でも、いい。思ってることを言いたかっただけだから。



「以上です」

そう言って、今度は私が久我くんに背を向けた。ついさっき彼を追い掛けて捕まえたばかりだと言うのに、今は逃げ出したい衝動に駆られていた。


それなのに。


「ああ、もうっ! なんなんだよ!」

背中越しに、彼のそんな声が聞こえる。

ーー怒らせたんだ。
そうだよね。話もしたくないって言われたのに、追い掛けて、捕まえて、『好みじゃない』とか言っちゃったし。

逃げたい気持ちがますます大きくなって、彼に背を見せたまま走り出そうと思った。


でも、それは出来なかった。

彼に、後ろから抱き締められてしまったから。
< 92 / 102 >

この作品をシェア

pagetop