狼社長の溺愛から逃げられません!
「仕事は出来るし尊敬はしてるけど、目的のためなら手段を選ばない人だからね。社長がウチの会社に来て一発目に手掛けた映画のこと知ってる?」
そう聞かれ、ハンバーガーを食べる手を止め、首をかしげた。
「新社長になってからヒットを連発したってことは知ってますけど……」
「社長がシネマボックスで手がけた一作目はイタリアのシチリア島が舞台の、綺麗だけど穏やかな映画でね。公開当時そこそこお客さんが入ったけど大ヒットってまでではなかったんだ」
「へぇ」
「だけど、その映画に女優の篠原紗英が恋人と見にきていたことが週刊誌にスクープされて、一気に映画の知名度が上がって、都内の単館でしか上映してなかった映画が全国で上映されることになったんだよ」
篠原紗英さんは確か、数年前に映画デビューした実力派女優だ。
エキゾチックな容貌と独特の存在感で初出演作品から注目され、何本か映画に出演したあとに急に表舞台から姿を消した、ミステリアスな女優さん。
芸能人のスキャンダルが映画の話題を集めるなんて。
そんな映画の広がり方もあるんだと驚いて目を見開いた。
「すごい偶然ですね」
「その悪運の強さが、悪魔に魂を売ってるとしか思えないよね」
「……確かに」
ふーっと息を吐き出して深くうなずくと、古賀さんがくすくすと笑った。