狼社長の溺愛から逃げられません!
「……じゃあ俺はそろそろ帰ろうかな」
そう言って歩きだした古賀さんに「ハンバーガーありがとうございました!」と声をかける。
優しく笑って頷いてくれた古賀さんのうしろ姿を見送ってからスマホに手を伸ばした。
「もしもし」
私が出ると、電話の向こうから聞こえてきたのは努の不機嫌そうな声。
『……出るの遅ぇ』
ぽつりとそう言われ、慌ててあやまる。
「ごめんね。今まだ仕事中で……」
『まだ働いてんの? 今日美月の部屋に泊まろうと思って近くまで来たのに』
「そんな、突然言われても困るよ。今日は家に帰れそうにないよ」
『……んだよ。せっかく来たのに』
舌打ち混じりにそう言われ、私はスマホを持ったまま唇を尖らせる。
私が家に来てとお願いしたわけでもないのに、勝手に怒られても困る。事前にこっちの予定を確認してくれればいいのに。
努は自分の家より私のマンションのほうが会社に近くて便利だからと、私の部屋をホテルかなにかのように使うことがある。
会いに来てくれるのはうれしいけど、ただ利用されているだけの気がして少し複雑だ。
電話口で黙り込んだ私に、努はわざとらしいほど大きなため息をつくと、『じゃあいいや』と言って一方的に電話を切った。