狼社長の溺愛から逃げられません!
 

「自分は一生この狭いベッドの上から出られないんじゃないかって、不安だった。あの頃はガキだったからな」

社長は自嘲するように言って、ちいさく笑う。

「イライラして枕を殴った拍子にリモコンのスイッチに触って、テレビがついた。その瞬間、だだっぴろい砂漠の中にいた」
「砂漠……?」
「古いイギリス映画。深夜にテレビで放送してたんだろうな。小さなテレビの光がベッドを区切る白いカーテンに映って、本当に砂漠の中に放り出されたみたいだった。発作の苦しさも忘れて、画面に見入ったよ。映画ってすごいなって思った。ベッドの上で発作に耐え胸をかきむしることしか出来ないちっぽけなガキを、一瞬で広大な砂漠まで連れ去ってくれた」

白いカーテンに囲まれた病院のベッドの上で、食い入るように小さなテレビを見つめる男の子の姿を想像して、胸があつくなった。

そのときの感動が、今の社長を突き動かしてるんだ。


「それで映画に関わる仕事をしようと思ったんですね」

そうつぶやくと、社長が笑った。


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