狼社長の溺愛から逃げられません!
分厚く重い扉を開けて、薄暗い部屋にこっそりと忍び込む。
窓のないその広い部屋には、ずらりと並んだ深い藍色のシート。壁一面を覆う大きなスクリーン。
全てを投げ出し遠くに行きたい。
そう思った私が逃げ込んだのは、オフィスのひとつ上のフロアにある社内試写室だった。
六十人収容できるその場所に忍び込み、座席のD列中央、この中で一番画面が見やすい特等席に腰を下ろす。
この試写室は映写機とデジタルプロジェクターを備えていて、昔ながらのフィルムからDCP、家庭用のDVDやブルーレイまで大きなスクリーンで上映できる。
普段はマスコミ向けや小規模なモニターを集めた試写会なんかに使われているけれど、社員が希望すれば個人的に貸し出してくれることもある。
そんな場所にひとり閉じこもる。現実逃避にぴったりの場所だと思ったから。