狼社長の溺愛から逃げられません!
座席で膝を抱えて小さくなっていると、視界を全て埋め尽くすような大きなスクリーンに砂漠の映像が写った。
青い空と、地平線。見渡す限りなにもない広大な砂漠の上を、砂煙を上げながら進むラクダ。
スクリーンに映し出される古いイギリス映画を、ぼんやりと眺めながら鼻をすすった。
こみ上げる涙を誤魔化すようにごしごしと鼻をこすり、なんとなくその自分の右手を見る。
……男の人とはじめて手を握った相手は、努だったな。
そう思ってしまうと、付き合っていた二年間の思い出が一気に溢れてしまった。
はじめてのデートも、はじめてのキスも、はじめてのお泊りも。全部努とだった。
はじめて私を好きだと言ってくれたのも、努だった。
二年も付き合っていたのに、電話の小さな言い争いでこんなにあっけなく振られてしまうなんて。
さっきの電話で、眠たいなんて言わなければよかったのかな。
無理して会えばよかったのかな。
そう思って、すぐに首を横に振る。
きっと、ふたりの間の恋はもうとっくに終わっていて、もし今日振られなかったとしても、近いうちにダメになっていたんだ。