狼社長の溺愛から逃げられません!
おかしいな。試写室は禁煙だから、煙草の匂いなんてしないはずなのに。
そう思って振り向くと、背後に人がいるのに気づいて私は跳び上がった。
「……こんなところで、なにしてるんだ」
煙草を咥えたままの唇で低くそう言った、長身の人影。
「しゃ、社長……!」
社長こそ、なんでここに! そう叫びそうになって慌てて口をつぐむ。
勝手に試写室に忍び込んで映画を見ていたことが後ろめたくて、肩をすぼめて頭を下げる。
「すいません、勝手に試写室を……」
言いかけた私に、社長が煙草を咥えたまま近づいてきた。
「そんなことは別にいい。それより」
そう言いながら社長が手をこちらにのばす。下を向いている私の顎を、長い指ですくい上げられた。
正面を向かされ戸惑いながら視線を上げると、至近距離で社長がじっとこちらを見ていた。
端正な顔に見据えられ、居心地が悪くて視線が泳ぐ。
そんな私を見て社長は微かに眉をひそめた。
「どうした。具合でも悪いのか?」
そう問われ、驚いて目を見開く。
いつも冷血で俺様なあの鬼社長が、私のことを心配してくれるなんて。