狼社長の溺愛から逃げられません!
 

「ないですよ、そんなの。さっき社長、私のこと虫でも見るような目で見下してましたもん」

思わず両手で自分の肩を抱き身震いすると、華絵さんが「虫って!」と声を上げて笑った。

「そんなことないけどなぁ。宣伝部で一番の頑張り屋でめげない美月ちゃんに、私は期待してるんだけどなぁ」

華絵さんが首を傾げてそう言うと、彼女の明るい色のショートボブがふわりと揺れた。

華絵さんは私より七歳年上の優しい先輩だ。二年前、三十歳のときに結婚して今は小さな子供もいる。
私のことは妹みたいに面倒をみてかわいがってくれていた。

そんな華絵さんに励まされ、ぴっと背筋をのばす。

「華絵さんにそう言ってもらえて嬉しいです! 華絵さんの期待を裏切らないように、鬼社長に負けずに頑張ります!」

こぶしを握りしめてそう言うと、華絵さんが私の背後を見て「あっ」とつぶやく。
そして、ふわりと煙草の煙が流れてきた。

嫌な予感がして恐る恐る振り向くと、ちょうど後ろを通った社長がこちらを見下ろしていた。
社長は口にくわえていた煙草をゆっくりと指ではさみ、意味ありげにこちらを見ながら首をかしげる。

 
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