狼社長の溺愛から逃げられません!
 

も、もしかして聞かれた? 今の私の言葉、聞かれた?

冷や汗をかきながらぎこちなく会釈をすると、唇の間からふーっと白い煙を吐き出し、今度は虫どころか道に落ちているゴミでも見るような冷ややかな視線で私を見る。

「……鬼社長で悪かったな」

抑揚のない声でそう言われ、私は跳び上がる。
硬直した私に近づくと、社長は長身をかがめ私の耳元に顔を近づけた。
端正な顔に至近距離で見つめられ、思わず鼓動が早くなる。

ドキドキしているのを悟られないように息をのんで社長のことを見上げると、形のいい唇を引き上げ、悪魔のような美しい笑みを浮かべた。

「明日までにコピー百個。楽しみにしてるからな」

容赦ないその言葉に、ドキドキしていた心臓が恐怖で縮み上がる。

「……はいぃっ!」

私が涙目になって返事をすると、社長は楽しげに笑って去っていった。

「ほら、やっぱり期待されてるじゃない」

そのやり取りを見ていた華絵さんにからかうようにそう言われ、「どこがですか……」と力なくつぶやいてデスクにつっぷした。


 
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