好きな人が現れても……
紺野君は笑いながら刺身の盛り合わせからマグロを摘み上げ、「いや、いい」と嬉しそうに手を振った。


特別話もしないけど場の雰囲気は良かった。
私はゆっくりと梅酒をみ進めてたけど、やっぱり少しほろ酔い気分になってたらしい。



「昨日ね…」


言い出したのは、そんな気持ちの良さからだった。
課長とは一言も言わずに、料理を教えた時のことを話した。


「彼の家に行ったら娘さんが一人いて、とっても可愛かったの。まるで白雪姫みたいな外見なのに男の子みたいに元気が良くて。……彼、いいパパだった。奥さんが亡くなってしまってるのに、家の中が明るくて居心地いい雰囲気だったの…」


自分なんか必要とされてないなと感じた。
課長の言葉を思い出し、目頭が潤みだしてしまった。


「……彼ね、娘さんに言ってたの。自分は一生を亡くなった人に捧げると神様に誓ったって。その人以上に好きな人にも会いたくないって。
…私…ショック過ぎてその場に倒れ込みそうだったよ……」


グスン…と鼻を吸ってから梅酒を飲んだ。
氷で薄くなった梅酒は、それでもやっぱり酔わせてくれる。



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